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「第 3 回 SSIS-NEDIA 関西シンポジウム」開催報告

「スモール製造によるビジネスモデルの変革」

―多品種少量、地産地消、Short Time to Marketの実現―

関西 NEDIA     小畑 光幸(㈱メガチップス)

 

 2016 年 9 月 1 日(木)、大阪大学中之島センター(大阪市北区中之島)において第 3 回 SSIS-NEDIA 関西シンポジウムが開催され、「スモール製造によるビジネスモデルの変革」-多品種少量、地産地消、ShortTime to Market の実現- と題して講演・議論が行われました。

 参加者も 80 名を超える盛況なものとなり、NEDIA が牽引する日本発の半導体製造モデルであるミニ マルファブや 3D プリンターを代表例とした個人ユーザーレベルでの IoT 活用によるものづくりへの関心 の高さが伺えました。

司会:NEDIA 理事・関西 NEDIA 代表 中村孝 氏

司会:NEDIA 理事・関西 NEDIA 代表 中村孝 氏

また、各講演ならびにパネルディスカッショ ンでの質疑応答も活発かつ真剣そのもので意義の大きなシンポジウムとなりました。

 

 司会は、NEDIA 理事・関西 NEDIA 代表の中村孝が務め、冒頭に SSIS(一般社団法人半導体産業人協会)の橋本浩一理事長より開 会の挨拶があり、続いて来賓の経済産業省近畿経済産業局地域経済 部次長志賀英晃様からご挨拶を頂いた後、講演ならびにパネルディ スカッションが執り行われました。

 

1.開会挨拶(橋本浩一 SSIS 理事長)

開会挨拶 SSIS理事長 橋本 浩一氏

開会挨拶 SSIS理事長 橋本 浩一氏

 半導体ビジネスの中では IoT、センサー、車載が盛り上がりを見 せていますが、これらの分野の技術開発は個々の企業の力では達成 しえない場合もありそのため M&A を駆使して技術獲得を果たして いる例があること、また最近は IDM のファブレス化やファウンダ リーの勃興などビジネスモデルの変化が起きていることの指摘があ り、このような状況の中でミニマルファブというモデルが日本の半導体産業の復興のトリガーになればと願っているとの開会の挨拶でした。

 

2.来賓挨拶(経済産業省近畿経済産業局地域経済部次長志賀英晃様)

来賓挨拶 近畿経済産業局次長 志賀英晃  氏

来賓挨拶 近畿経済産業局次長        志賀英晃 氏

 第 3 回開催へのお祝いの言葉を頂戴し、技術力、信頼性の高い日本の電子デバイス産業において NEDIA や SSIS が先頭を走っており敬意を払っていると評して頂きました。それだけでなく今年 度、閣議決定された日本再興戦略 2016 の中で IoT やモビリティ などの第 4 次産業革命の普及・発展を推進していくことをご紹介 になり、また経済産業省としても企業間のビジネスのマッチング や補助金などの支援を図ることをご紹介頂きました。

 最後に、多品種少量生産のニーズが高まってくるだろうこと、そのことから今回のシンポジウムが時期を得たものとのご評価を頂きました。

 

3.講演 1:「電子デバイスのスモール製造を目指したミニマルファブ構想と開発の現状」

国立研究開発法人        産業技術総合研究所      研究参与 井上道弘 氏

産業技術総合研究所 研究参与 井上道弘 氏

産業技術総合研究所 研究参与     井上道弘 氏

 

 少量生産であっても適正なコストで供給でき、かつ投資金額をこれまでのメガファブの 1,000 分の 1 に抑え得る製造システムの実現 を目指すミニマルファブビジネスの開発状況を発表頂きました。

 ミニマルファブはもともと多品種少量生産を狙ったものである ものの、現在では半導体の産業モデルの変革を目標としています。

これまで進化を続けてきたプロセスノードの微細化は止まろうとしていて微細化による性能向上が出来なくなり、More Moore からMore than Moore と変容を示しています。ミニマルファブという製造モデルはこの状況に対し種々の解 を提供します。最近の報道でも日本経済新聞などで「究極の少量多品種化を実現」、「ジャストインタイ ムで半導体適量生産」とピックアップされています。

 工場運営上も例えば半導体の SCM(サプライ・チェーン・マネージメント)には設計検証コスト、工場 の滞留在庫、MOQ(最小発注数量)を理由とする余剰 Wafer など多くのムダに対し、生産ラインの規模を 極小にして必要なものを必要なだけ作るミニマルファブはこの解決に貢献します。更に、工場設立の投 資金額はクリーンルームも不要なためメガファブに比較し大幅な削減となり、TAT が短いこと(1 工程 1 分間を目指し開発中)、また MOQ も 1 ロット=1Wafer(ハーフインチ)=1 チップと最小のものとなるな どのメリットをもたらします。

 ミニマルファブに必要な要素技術のかなりの部分が実用化済みもしくは開発中で、デバイスの試作自 体も進んでいます。また、パッケージに関しても生産可能で QFN に留まらず、BGA を開発中かつ 3DIC が構想中という状況です。

 市場的には低微細でないプロセスノードを使う高付加価値製品の需要も未だ大きく、メガファブの持 つ量産価格効果を必要としないマーケットを担えるものであり、例えば米国では数 1,000 ラインの置き換えのチャンスが想定出来、これからら 2025 年には新規製品ならびに置き換えで各々5 兆円以上の市場 を獲得するだろう期待があるとのことでした。

 この他にセミコンジャパンのセミナー会場にミニマルファブの装置を設営しデモを行うなど工場設置 も非常な短期間で行ったことのご紹介もありました。

 まとめとしてミニマルファブは 21 世紀型の新しい産業モデルとして多品種少量生産、スモールビジネ スに貢献していくとの力強いメッセージを頂きました。

 

 尚、講演後の質疑応答の時間では「(半導体業界の)新しい未来を創ってほしい。」、や「(積極的に成功に 邁進するために技術的)ブレークスルーをたくさん作って欲しい。」などの激励のお言葉を頂きました。

 

4.講演 2:「多品種少量型ハイブリッド生産ライン(ミニマル装置+既存装置の可能性)」

㈱ネイタス 取締役 今井龍二 氏

㈱ネイタス 取締役 今井龍二 氏

株式会社ネイタス 取締役      今井龍二 氏

  

 ミニマルファブの実用化を推進している株式会社ネイタスからマーケティングやビジネスの状況、特許関連について「株式会社ネイ タスに対する理解ならびに将来への共鳴を得る」ことを狙いとして 力強いご紹介がありました。

 ライン構築については実用化を加速するために完成に至っていないプロセス(工程)に関しては既存の製造装置を使用し完成しているプロセスはミニマルファブを使用するというハイブリッド・プロセス構想の説明がありました。この仕 組みにより 2017 年からのデバイス生産が目論まれています。

 少量を作ることこそがメリットを発揮する「多品種少量生産」の格好のターゲットとしての市場を思惑も含めてご紹介頂きました。例えば、アナログのデバイスを作る場合、製品として最適な性能を求め るために 100~200 種類以上ものパラメーターを使って試作することがあり、これを 6 インチや 8 イン チの Wafer で作ると相当の時間とコストが掛かりますが、ミニマルファブの 1Wafer=1 チップという少 量と 1 プロセス=1 分(目標)という超短 TAT なら大幅な短縮が期待出来ます。また、日本には 1,900 に 及び大学・学校の研究室がありますが日本の大学の決して多くない研究費予算ではデバイスを作ったこ とのない先生・学生がたくさん存在します。ミニマルファブならそのような需要の受け皿と成り得ます。 競合的な製品としては少量製品で活用出来るデバイスとして FPGA がありますがミニマルファブで生産 するものはこれと比較してアナログ混載が出来る、消費電力は抑えられる、RF アンテナが作れる、MEMS センサーも共存可能などの優位性を見せることが出来ます。

 一方、デバイス開発をする際には設計ツールという課題があります。高額のツールは研究室或いは小 規模の企業では手が出にくいものですが、ミニマルファブでは株式会社ネイタスの展開する D2-Cloudy プロジェクトでミニマルファブ向けのコストメリットがある「ミニマル EDA」ツールの開発が進んでい ます。

 今回は豊橋技術科学大学とのセンサーの共同開発や他にも国内の高等工業専門学校とも共同研究を進 めていることなど具体的な事例もご紹介頂きました。

 ビジネスターゲットの例や、産学協同の推進をご紹介頂き、成功へのパワーを感じる講演でした。

  

慶應義塾大学 教授 田中浩也 氏

慶應義塾大学 教授 田中浩也 氏

5.講演 3:「ファブ地球社会の目指すもの」

慶應義塾大学 情報環境学部 教授  田中浩也 氏

 

 「3D プリンターが拓くファブ社会」を主軸テーマとして、文部科学省 COI プロジェクトで進めておられる要素技術開発や、具体 的な分野での応用事例、ローカル(地域)からグローバル(地球規模) に広がる新たな創造のネットワークについて講演頂きました。デ ジタルファブリケーションと IoT の融合による新たなものづくり の形とそこから生まれる新たなアプリケーションについて教育、産業、医療などの各側面から、ツール としての 3D プリンターを軸に解説頂いた内容はわかりやすく興味深く会場が大いに沸きました。

 最近の学生はものづくりに関心があるそうです。慶応大学の図書館には 3D プリンターが設置されていて学生がよく利用しており自分が欲しいと思うものを気軽に自由に作る、例えば、スマホの電源ケーブ ルの断線防止用の補強カバーなどを作っていることを紹介頂きました。

 3D プリンターがあれば 1 個からでも、また複雑な形であってもモノが作れ、そのデジタルデータをイ ンターネットのサイトに掲載し世界中のいろんな人と共有する事も出来ます。実例も出てきています。

 医療分野の現場では、患者一人一人のサイズに合うようにカスタマイズしたギプスや介護用の便利器 具の作成などに活用され始めています。

 

 IoT には「買ったときの価値は少ないが、情報の蓄積により価値が高まる」ことが期待出来るとの見解 もありました。1 例として、デジタルファブリケーションと IoT の融合での価値向上という点でセンサデ ータ活用があげられます。工場での生産、センサーによる工場からの各種データの取得、データの解析 と工場へのフィードバッグが、ループすることで価値が高まっていくというものです。

 3D プリンターなどの工作機械の低価格化、小型化が進み、3 次元データの創出や活用のためのプラッ トフォームが整ってくると、いつでも誰でも必要なものを必要なだけ作ることが出来る社会の到来も来 るだろうと予測され、そのような状況になれば、作ったものに価値をつけていく、あるいは価値を増や していくために(センサーなどを含め)半導体の力が必要との思いをご紹介頂き、本日の講演を締め括って 頂きました。

(※)講演の中では、画像(形状)検索エンジンを開発されたことも紹介されていました。従来のように言 葉(文字)で情報を検索するのではなく形(形状)で検索するという新しい情報処理のコンセプトです。 また医療向けの 3D プリンターの材料(樹脂)も世界に先駆けて開発したことを発表され、この点も 含めて 3D プリンターのものづくりの環境を着々と整えておられることが良く分かるものでした。

 

6.パネルディスカッション「スモール製造によるビジネスモデルの変革」

司会・モデレータ:NEDIA 理事・関西 NEDIA 代表/

ローム株式会社 研究開発部 部長  中村 孝 氏

パネラー:アクティブリンク株式会社    代表取締役社長              藤本 弘道氏

オムロン株式会社 事業開発本部  マイクロデバイス事業推進部

戦略・技術開発担当        経営基幹職              西尾 英俊氏

国立研究開発法人  産業技術総合研究所  研究参与 井上 道弘氏

株式会社ネイタス 取締役                                                    今井 龍二氏

慶応義塾大学 教授                                                              田中 浩也 氏

パネルディスカッション  会場風景

パネルディスカッション 会場風景

「地産地消、小ロット生産技術、少量多品種生産」のスモール製造のコンセプトを基に討論が行われました。半導体ビジネスに関わる人々が如何にミニマルファブに注目しているかが感じられる会場の熱 気でした。

a)ショートプレゼン 1

アクティブリンク株式会社  代表取締役社長  藤本 弘道 氏から同社のロボットビジネスの紹介を 頂きました。

 同社製品の主力製品であるアシストスーツなどを基点に「パワーバリアレス社会の実現」を目標と されていることや多品種対応を求められる同社のビジネスにミニマルファブへの期待感を述べて頂き ました

b)ショートプレゼン2

 オムロン株式会社 事業開発本部 マイクロデバイス事業推進部 戦略・技術開発担当  経営基幹職 西尾 英俊 氏より同社の MEMS ビジネスやメディカルビジネスなどからミニマルファブ活用の前途 を講演頂きました。

 オムロンヘルスケアカンパニーで血圧計の製造をされていますが、そこには同社製の MEMS 圧力セ ンサーが使われています。他に MEMS マイクロフォンセンサーも製造されています。これらの MEMS は開発段階の試作では多種少量が求められるためにミニマルファブを、量産段階ではボリュームが必 要なためにメガファブをという使い分けが有効になるとこちらもミニマルファブへの期待感を表明頂 きました。

c)ディスカッション全般

 主に会場から質疑にお答える形で幅広く様々な状況につき議論が行われました。

・海外展開方針については欧米、アジアなど W/W での商談中。

・特許に関しては国内だけでなく米国、韓国、EU においても出願している。

・誰が設計をするのかという点も課題。アイデアはあるけどツールがないので設計が出来ないとい う声もある。そこはミニマル EDA をより良いものにすることで応えていく。また、デザインハウ スの力を期待している。

・ミニマルファブの強みの一つはアナログにも対応出来ること。FPGA では出来ない。

・多品種少量が有効な試作段階への適用でアナログ製品の開発スピードは 10 倍くらい速くなるだろ う。

・ロボット分野での期待に関して「モーター一つ一つにドライバーをつけられると便利になる。軽量化が図れ、配線も容易になる」が上げられる。このようなパワーデバイス系への声は今後も 出てくるはず。

・耐熱性を持つパッケージも材料の複合化が可能になるので実現出来る。 等の議論の最後に、NEDIA 理事・関西 NEDIA 代表/ローム株式会社 研究開発部 部長 中村 孝 氏より IoT の世界がデバイスのビジネスも広げていくが、その実現に貢献出来るミニマルファブ を応援してきたいとの言葉で締め括り頂きました。

 

NEDIA 代表理事・会長 齋藤昇三 氏

NEDIA 代表理事・会長 齋藤昇三 氏

6.閉会の挨拶   NEDIA 代表理事・会長  齋藤昇三

 当シンポジウムならびにパネルディスカッション参加者の方々へのお礼の言葉があり、また、NEDIA では情報整理を担う 戦略マップの紹介と NEDIA の機能の一例として株式会社ネイタスが新規事業創生委員会により立ち上げられたことをあげら れ、IoT のビジネス実現のために各社の連携を NEDIA がサポー トすることの表明をもって閉会となりました。

7.交流会

 シンポジウム終了後、別会場にてセミリンクス代表、NEDIA 理事・関西 NEDIA 副代表 和田 悟 氏の司会により交流会が開催されました。

 伊藤達 SSIS 副理事長の挨拶、近畿経済産業局地域経済部次 長志賀英晃様には乾杯の音頭、株式会社メガチップス代表取締役社長 NEDIA 理事・関西 NEDIA 副代 表高田 明 氏の中締めの挨拶を含め、ご参加各位による積極的で生き生きした熱気のこもった交流会 でした。

SSIS 副理事長 伊藤 達 氏

SSIS 副理事長 伊藤 達 氏

近畿経済産業局次長 志賀英晃 氏

近畿経済産業局次長 志賀英晃 氏

交流会  会場風景

交流会 会場風景